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◆問題はスペインにあり

◆ ギリシアとスペイン

ワールドカップも始まり、ギリシアやポルトガル、スペインといった債務不安でお馴染みの国の名前がスポーツ番組でも連呼されるようになった。日本を応援しながらも、こうした欧州の国々が財政不安を吹っ飛ばしてどこまで活躍するのか、興味は尽きない。

さて、市場はいつまでギリシア問題に拘り続けるのだろうか。たしかにギリシア財政は深刻な状況であり、目先の調達リスクは消滅したものの、来年以降のリスケはほぼ確実だ。ユーロ離脱の可能性すら否定出来ない。ギリシアは、向こう数年間話題になり続けることだろう。

だがギリシアよりも重要なのは、スペインである。世界第9位と第29位という経済規模、あるいはユーロ圏に占める経済シェアが11.7%と2.6%という差を見れば、それは一目瞭然であろう。因みにポルトガルの経済規模は世界33位でギリシアよりも小さく、ユーロ圏での経済シェアもアイルランドと同じ1.8%である。

ユーロ圏経済が、26.8%を占めるドイツとシェア21.4%のフランスを中核としているのは事実である。これにイタリアの16.9%が次ぐ。スペインはいまひとつ「経済大国」という感じはしないが、それでも何か問題が起こった時の影響は、ギリシアやポルトガルの比ではない。

ギリシアで騒ぎ疲れたのか、株式や為替の市場はスペイン問題を過小評価してきたように見える。だが、銀行間市場にとってはサブ・プライム以来の大問題である。無担保でスペインの銀行に貸し出す銀行は居なくなった。欧州だけではなく、米国や日本でもスペインの銀行向けの無担保融資は事実上ストップしている、と言われる。

スペインの銀行は大手を中心にECBへ雪崩れ込み、5月のECB借り入れは856億ユーロとリーマン・ショック以前のほぼ2倍の規模となり、ECB貸出の16.5%を占めるに至った。株式市場が、S&PやMoody’sによるギリシア国債のジャンク級への格下げという織り込み済みの話題に右往左往しているのを横目に、短期市場ではスペイン問題がホットな話題になっていたのである。

スペイン当局が、EUやIMFと非公式に対応協議していたことは想像に難くない。ドイツのフランクフルター・アルゲマイネがこれをすっぱ抜いた。関係者は否定したが、スペインの銀行や企業の資金コストの上昇は認めざるを得ず、スペイン中銀はストレス・テストの結果を公表することで、市場の懸念を払拭することを決意した。

だが、それで市場の疑心暗鬼が収まるわけではない。米国のストレス・テストが如何に曲玉であったか、思い起こせば十分だろう。スペインはおそらくユーロの将来を決定付ける大きな鍵を握っている。ギリシアが離脱しても「市場波乱」で終わるだろうが、スペインの離脱はユーロの根幹を揺さぶる。ワールドカップの行方も気になるが、スペイン問題からも目が離せない。

◆ 持ちあい構造再確認

ユーロ圏の債権・債務関係を見るにはBISの統計を使うのが便利である。以下、6月に公表された四半期報告から少し抜粋して見ることにしよう。下の表は、横列が債権を保有する銀行の国、縦列が借り入れ国をそれぞれ示している。例えば、フランスの銀行が保有する対ギリシア債権額は、788億ドルである。数字は2009年12月末のものである(太字は筆者)。

上記から解るのは、対外借り入れの多いのはイタリアとスペインであり、それぞれフランスとドイツからの借り入れに大きく依存している、という事実である。裏返せば、イタリアやフランスがひっくり返れば、ドイツ・フランスも無傷ではない、ということだ。またアイルランドが問題を起こせば、ドイツと英国は大変なことになる。

もう一つ、PIIGS同士の持ちあい構造をBISから拾ってみよう(同じく太字は筆者)。

この表の見方も同じであり、スペインの銀行が保有する対ギリシア向け債権は12億ドル、ということになる。ここで大きいのはスペインが持つポルトガル向け債権だ。ギリシアが躓いても何とかなりそうだが、ポルトガルがコケルとスペインが危うくなり、スペインが問題になれば、フランス・ドイツが真っ青になる、というドミノ構造である。

欧州問題は、まだこれからである。日本が知らない話がゾロゾロ出てくる可能性もある。ユーロ圏の外側の英国も不気味な存在だ。欧州に注目が集まってほっとしている日本や米国も、明日は我が身である。参院選挙ばかりに目を向けて、世界の情勢に完全に立ち遅れることのないように、スペイン問題にもう少し注意を払っておくことが必要だろう。

2010年6月25日(第223号)