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◆ 不動産証券化と金融市場

本稿は、本誌編集人が参加した8月24日開催の不動産証券化協会主催による鼎談の内容を、同協会の承諾を得て掲載させて頂くものです。本内容は、同協会発行の「不動産証券化ジャーナル 10月号」にも掲載されております。

<出席者>

田邉信之氏 宮城大学 事業構想学部教授 (モデレーター)

堀江正博氏 東急リアル・エステート・インベストメント・マネジメント株式会社 代表取締役社長

倉都康行  RPテック株式会社代表取締役

◆ 新自由主義の解釈がうまくいかず、迷っている

田邉:今日は「不動産証券化の組成期から金融市場の発展を振り返る」というテーマで、特に金融から、不動産証券化市場とリート市場を見ていきたいと思います。問題意識としては、大きく二つあります。

一つは金融の潮流の中で証券化、特に不動産証券化をどういう位置づけで考えたらいいかということです。

それから日本経済の将来の発展に資することが不動産証券化の役割の一つにありますから、金融の大きな流れの中で投資資金をどういうかたちで日本に導入したらいいかが2点目です。

最初のテーマについて私なりの認識を簡単に申し上げます。

ファイナンスという切り口で証券化の役割は、リスクの移転になります。ところが最近の金融市場の動きを見ると、むしろリスクを拡大させることが起きている。これは証券化の仕組みそのものの問題というよりも、商品組成や利用の仕方に問題があります。

サブプライム・ローン問題では、ローンを組成した人が悪いだけではなく、その背景には、実体経済に対してその数倍に膨れ上がった金融市場の問題があります。たとえば1995年からサブプライム問題が起きる2007年までに、世界のGDPは約1.5倍の伸びであるのに対して、金融資産は株や債券だけで(デリバティブを除いても)、約3倍という異常な伸びを示しています。

これがサブプライム問題や、究極的には欧州債務問題、AIJ問題など、昨今の金融市場に生じる問題に影響しているでしょうし、不動産証券化の将来を語る場合にも、金融市場の潮流やこれからの展望はある程度押さえておく必要があると思います。

倉都さんはグローバル市場の経験が豊富でいらっしゃる。金融の潮流の中で、証券化や不動産証券化をどのように位置づけていけばいいでしょう。

倉都:1980年代からの流れを金融面に沿って簡単にお話しします。まず70年代のに非常に厳しいスタグフレーションの時代を経てがあり、80年代に世界経済がそこから抜け出すします。そこで大きな力となったのは米国レーガン政権や英国サッチャー政権による政策哲学で、いわゆる“新自由主義”です。新自由主義による規制緩和やグローバリゼーションで経済が一段と成長、それを支えたのが金融の力です。金融が経済成長の原動力になった背景には、資本市場の拡張に加え、証券化やデリバティブなどを支えた、金融工学も大きな力を発揮しました。

間接金融中心の市場だった日本でもは、金融システムを変えようるというムードが醸成され、商業銀行は投資銀行を目指すなど、米英の市場型金融モデルを追随するようになります。しかし国にはそれぞれ固有の経済発展の歴史がありますから、金融システムもは急激には変わらない。銀行は不動産を担保にした融資を拡大し続け、結果として不動産バブルが発生、そしてが崩壊して経営が行き詰ります。金融の変革は90年代に頓挫するというのが第1段階です。

むしろ、バブル後の不良債権処理の過程で金融の仕組みを変える流れが出てきます。銀行資産の証券化流動化、ローンの流通市場整備流動化、クレジットデリバティブなども出てきて、Jリートの仕組み作りも議論され始める。バブル崩壊の副産物として金融に変化の兆しが見え始めたのでます。間接金融から直接金融への流れは一朝一夕には進まないが、第2段階として低迷していた経済を再生する為に資本市場を活性化させようとするムードが強まっていきますの醸成が進みます。

しかしその後、ライブドア問題や村上ファンド問題などが起こり、新自由主義に対して疑問が生じて来た頃に、追い討ちをかけるようにサブプライム・ローン問題、リーマン・ショックと続き「マーケットは怖い、。市場経済はまずい」という流れが2007〜2008年頃に生まれてしまいましたです。米国流は決してグローバル・スタンダードではない、という風潮もそれを後押ししました。

それから5年程経過した今、それでもそうは言いながらもマーケットは重要という認識のもとでは損なわれておらず、日本でも資本市場の機能が定着してきたかに見えます。これが第3段階ですね。しかし目指してきた米国の金融が崩れ、理想とする“金融像”を見失ってしまった。その葛藤から脱却し切れずにいるのが、いまのマーケットでしょうの数字に表れています。現在は今はまだ産みの苦しみの段階で、もう一段加速する一皮むけるために試行錯誤している状況にあると思います。

田邉:大きな流れとして証券化は経済全体に有益ではあるが、一部で新自由主義のきしみとも言われる部分が生じ、米国の金融崩壊とも相俟って、今は迷っているという感じでしょうか。

倉都:そうですね。特に証券化についてはサブプライム・ローン問題が強く影響した為に、どこまでその機能を信用してよいか解らない、という戸惑いが規制当局と金融市場のどちらにもあるように思います。また日本は不動産で非常に痛い目に遭ってきましたので、銀行や機関投資家は特に不動産に関連した投融資には慎重です。但しおり、その低迷局面から抜け出す為に何とかクリアしたいし、証券化市場に一つの光明を見出した、という認識はできていると思います。生まれたものを大きく育成させるところで、いくつかハードルが残っているという状況だと感じています。

◆ 不動産を切り口にBS圧縮を促した証券化

田邉:こういった金融の流れの中でリートが果たしてきた役割について、堀江社長のお考えを聞かせてください。

堀江:商業銀行を中心としたレンダーのバランスシート圧縮という金融サイドの切り口でお話がありましたが、日本の事業会社は不動産を多く抱えており銀行と似たような状況だったかと思います。

事業会社においても、不動産を切り口としてバランスシート圧縮を促したのが証券化です。入り口は自己流動化型SPCで、その先にゴーイングコンサーン性のあるREITが出てきました。

会計のオフバランスニーズに限らず、事業部門に埋まる不動産をバランスシートから外して、当初は過剰債務の解消に使われて資金が、徐々に成長資金に充てられていくというプロセスが進みます。その点から証券化が果たした役割は、金融でも事業会社(不動産会社を含む)でも非常に大きかった。今後は放っておいても経済は成長していく状態ではないので、われわれはより効率的な経済の運営が必要になります。事業会社においても「資金を寝かせず、バランスシートを高度利用して回転させていく。不動産はバランスシートの中に埋めておかずに活用する」という観点で、不動産を事業会社から切り出し、資金をつけていくのがリートの役割で、この手法は今後の低成長時代、少子高齢化を切り抜けていく中では活用していかざるを得ないものだと思います。

一方で、新自由主義の行きすぎの弊害として規制が追いついていなかった点は否めません。サブプライム・ローン問題が出るまでは、ノンリコース・ローンや私募ファンドが日本の不動産市場、特に売買市場をけん引してきましたが、これらに対するチェックが遅れていたことは確かです。不動産物件を買いに行くにしても、ガチガチの規制で縛られたリートと、当時はまったく規制がなかった私募ファンドでは勝負にならない状況でした。同時に、特に外資系のノンリコース・ローンには当局の手がなかなか届かなかった。私募ファンドと、それにデットをつけるノンリコース・ローン、CMBSへの規制の遅れがマーケットのシクリカリティを大きくした面はあります。

それと日米の話も出ましたが、アメリカ人の家計部門の借金漬けは日本と状況が大きく異なります。私が90年代終わりに米国に赴任したときに、ホームエクイティローンがテレビや新聞で大々的に宣伝されていました。ホームエクイティが上がった部分を使ってお金を借りないほうがおかしいという雰囲気で、そのローンを活用して車を買うことは日本ではまずないでしょう。日米のメンタリティーの差は大きいです。

田邉:良くわかります。私は銀行時代に不動産会社のリストラや海外投資も処理しましたが、多くのなかで唯一利益が出たものが米国の住宅です。何でこれだけ成功したのか。バブルが続いていただけなんですね。

不動産証券化はこれまでも金融面、不動産面においてもその役割を大いに果たしてきました。しかし現実には米国でも欧州の金融市場でも問題が生じています。これから金融はどこに向かい、その中で証券化はどういう位置づけを目指していくのか、未来像についてはいかがでしょうか。

◆ いまの経済は不動産を軽視し過ぎている

倉都:証券化とは物理的に動かないものを金融の力で動かす、ということです。それはマネーを解放してやる、という意味での一つの側面として、実体経済の水準を高めるためのツールであることは間違いありません。「金融は実体経済に対する浮力だ」という話を私はよくしますが、いままで企業の財務の中に沈んでいた不動産を浮かび上がらせる証券化は、バランスシートを改善させる為のに対する浮力だと言うことも出来でもあります。

但し、やはりとても便利なものは不適切な使い方を誘発します。米国市場で発覚したサブプライム・ローン問題は、証券化といえども使い方次第で危険な飛び道具になってしまうことを、あらためて痛感させられました。これはデリバティブズにも言えることですが、適切な規制やルールはやはり必要です。それを踏まえた上で証券化を進めていくことが、日本だけでなく世界の市場に求められています。

但し、不動産金融に関する規制と言う面では別の問題もあります。それは、意外かもしれませんが、各国の金融当局において不動産を熟知した人が少ないということです。例えば、

2007年にバーナンキFRB議長は「米国の不動産価格下落の影響はそれほどは全く問題ではない。サブプライムも問題のインパクトも限定的だない」と発言しています。これが間違った認識であったことは明白です。欧米に限らず、日本でも金融政策決定や規制導入に携わるをする人々人間が不動産を知らないことは由々しきことです。不動産は経済の基礎ですが、今の経済学は不動産を軽視しているようです。

近代古典経済学の古典では必ず地代がメインテーマになっており、私の学生時代には経済理論を企業の利潤、賃金、地代を通して教わってきましたが、最近の経済学者は地代や不動産の話をしません。私が会社をつくったときも事務所をどうするか、賃料がいくらかかるかは一番大きな問題でした。日本経済を考える人たちにはその感覚が抜け落ちているかもしれません。

不動産では痛手を被った経験があるにもかかわらず、ためかもしれませんが、不動産と実体経済や投資活動との関連に対する認識があまりにも認識が乏しいというのが私の感覚です。不動産への問題意識それを呼び戻すためにも、不動産と金融を結びつけた証券化商品は極めて重要な意味を持ちます。アセットクラスです。またJリートは11年前に世に出てきましたが、運用資産としても、これだけリスクとリターンの均衡が取れた金融商品はないと思います。

堀江:「不動産が軽視されている」のには全く同感です。生産要素には「土地・労働・資本」として、土地が最初に扱われていたものです。

サブプライム問題の直後に当局といろいろ議論する中で、私は「労働と資本には雇用保険と預金保険というセーフティネットがあるが、不動産には何もない。間接的にでも何かないと困る」と言ったことがあります。不動産も経済の根幹です。他はオーバーシュートするときのセーフティネットを政策で用意しているのに、不動産にはそれが用意されていない。学問的にも研究が進むべきテーマだと思います。

◆ リートの社会経済的役割

堀江:リートの社会経済的な役割には大きく二つあると思います。一つは不動産の流動化促進と資産デフレからの脱却です。二つ目は不動産収益を分配するミディアムリスク・ミディアムリターンの金融商品の提供です。

これに加えて“不動産市場の近代化”が挙げられます。不動産市場は透明性の点からは遅れたマーケットなので、われわれは先兵として規律と透明度を持ち込むことを実施してきました。透明度向上のメリットは、内外の投資資金が不動産のエリアに入りやすくなることと、もう一つはリスクプレミアムが低下することです。

透明度を上げ規律を高めるのはしんどい作業ですが、それは国民経済に資するものであり、回り回って不動産プレーヤーにも利益となるので、ここは間断なき努力が必要です。残念ながらある調査では日本の不動産市場の透明度はシンガポール、香港、マレーシアに劣るという結果が出ているので、ここはまだ改善が必要です。逆に言えば、この面でも成長の余地があるということです。

そして、不動産取引による事業会社への成長資金の提供が可能なことから“経済成長と効率化”に資することがリートの役割でもあります。

さらに震災以降注目されるのが“社会インフラ整備”としての機能です。耐震、耐火性の高い建物を民間資金が供給していくにあたりリートが後ろで構える。特に東京は建物の3割が旧耐震と言われ、仮に東京都区部にあるオフィス、住宅、工場、店舗の旧耐震のものを全部建て替えると約28兆円かかります。これは政府の資金ではできない。都市の持続性を高めるための耐震、耐火性の向上が非常に大きなテーマになっているので、役割として期待されることは本当にたくさんあると思います。

田邉:規律や透明性を統括すると“不動産市場の近代化”ということですね。そのときにより重点は変わるでしょうが、私も同じ意見です。

◆ 市場原理がないと効率性や成長性は出てこない

田邉:実物投資市場は実体経済で投資利回りが落ちていかざるを得ないという運命にあると思います。なぜ、いままで先進国がある程度の利益を得てきたかというと、世界にある資源を安く使い、グローバル化の中で安い賃金である程度利回りを上げてきたからです。

ところが新興国が経済力を強め資源価格も人件費も上がり、利回りは下がらざるを得ない。その中で、ある程度投資を確保したいために、金融が肥大化してきた面もあるのではないかと思います。

肥大化を止める一方で、実体経済は伸びる余地がないのかというと、まだいくつかあると思います。ただ資金配分機能を政府に任せきりでは無理です。

市場原理を生かす。資金を流入させて、それを必要なところに配分する。その判断は投資家だからシビアです。一定の利回りを求められますが、効率化が金融資産の運用に過度に作用しないよう、実物で一定の利回りを確保することが必要です。それ寄与するのが不動産証券化だと思います。

倉都:昨年発生した東日本大震災の復興に10兆円程度のなりのお金が必要だという議論が起きましたが、その際にというときに、真っ先に出てきたくるのが「国の資金で何とかしよう」という発想ですね。民間の資金を使うという話はなかなか盛り上がらない。何かあると「政府が」「国が」というのが現代の考え方の主流発想です。民間とか市場とかいう言葉は二の次なのです。

それは株式や為替などの市場でも同じことが言えます。最近の世界的な傾向と言っても良いのですが、景気が悪くなって株価が下落すると、すぐにおカネを増刷するような金融政策を期待し、円高になると為替介入を要求する大合唱が起こります。市場は理由があって上下するものですので、行き過ぎた場合には必ず反動が起きて修正されます。

そうした自律機能を失うと、市場は自分でプライシングする力を無くしてしまいます。これが“市場原理”という機能を損なうことになるのですね。

“市場原理”を悪く言う人もいますがいように言われることが散見されますが、市場経済にとって市場原理は当たり前のことです。いわゆる”原理主義“とは異なります。市場のプリンシパルがないと効率性や成長性は出てきません。今後も復興などのでは同じような議論が起こる今後もされる可能性もあるでしょうが、はありますが、その際には「民間で」「証券化の仕組みによって」という話が本来は出てくるべきでしょうす。

田邉:震災復興では当初は官に頼りすぎていました。ようやく民が立ち上がって動いていますが、最初から民間に任せたほうがいい領域がかなりあったでしょう。

◆ J-REITは「貯蓄から投資へ」の導入商品

倉都:さらに行政がもう少し手を突っ込んでもいい領域があります。私の考えでは、投信投資の世界に存在する2ケタ分配商品が市場のお金の流れを歪ませていると考えています。ゼロ金利時代に2ケタの分配は何か特別なことでもやらないと出てこない。「皆さん、よく考えてください。ゼロ金利の時代に2ケタの利回りなんてどう考えても変でしょう?」と、もっと警告し言っていい。こういった商品に引きずられて、ミドルリスク・ミドルリターンのJリートなどにお金が回らないという市場の歪んだ構造があるのではないでしょうか。

おカネの流れを是正する、ということは市場経済にとって非常に重要です。おカネは経済の血液だと言われることも多いですが、現在の日本ではいわば「血液がドロドロ」のような状態になっています。貯蓄の大部分は国債や海外に流れているので、なかなか国内投資に回らない。そこを改革しないで「成長戦略」などを語るのでは、意味がありません。

そもそも不動産は経済構造の最もコアになる部分であり、そこに血液が流れないような経済に発展はありません。企業や銀行だけでなく政府や自治体などの底積み資産として「死蔵」されている不動産に照明を当てて、投資家に収益機会を与えながら、マネーを成長分野に割り当てていくべきです。そうなれば、

ミドルリスク・ミドルリターンの特徴が理解されて魅力が認識されれば、Jリートや復興プロジェクトに対しても期待値が上がるでしょう。こうして

お金の流れる仕組みが変われば不動産にフォーカスが当たるようになればり、成長の余地をもっと見つけられます。

堀江:リターン15%というダブルデッカー型ファンドからは、Jリート市場にも短期的には資金が流入してきました。しかしあれで痛手を被った投資家には、ほとんどの理由は為替にあるにしても、リートに責任を寄せ二度とリートは買わないという方もいらっしゃる。ですから業界にとってはプラスではないですね。

しかしダブルデッカー型のファンドが出る前にも同じような話はありました。毎月分配型のグローバルソブリンでは一定の利回りを保つために、特別分配金として元本から切り出していたが、実はそれを良しとして購入する方もいて、「一定額をもらえるなら元本は少し減っても年金的に80歳までもらえばいい」と、リバースモーゲージのように前向きに捉える向きもありました。

ただ、必ずしも商品性やリスクは理解されていたとは思えないし、国債の利回りが1%の時代に15%のリターンというのは、よほどのことがないとあり得ない話ですから、売る側の説明責任は重い。

特に「貯蓄から投資へ」が、日本の今後の生産性なり成長力を引き上げていくとすれば、Jリートはその導入商品です。銀行預金をしている方に、いきなり「ハイテクの株を買いなさい」と言うのは無理な話です。値上がり益はそれほど期待できないがインカムがきっちり取れるJリートをまずは買っていただく。リートでトレーニングして、慣れたら次に株を買うというように、ステップを踏んでいくときの最初の導入商品です。あるいは最初は公社債投信かもしれませんが、投資家の方がエクイティの世界に足を踏み込む入り口になりたいと思っています。

証券会社窓口で対面販売をする方のリート商品に対する理解力や説明力の向上が、今後の需要を掘り起こしていくためもう一つ大事なカギです。

そして何より個人投資家に対しては「信頼」がカギだと思います。

個人投資家は投信経由と直接投資と両方のルートがあり、さらにプロ並みの個人から初心者もいます。

倉都さんの言われる2ケタ分配商品は多くの方が初心者で投信経由で入ってきました。初心者にもインカムをコツコツ稼ぐという考えの方も、ハイイールド志向の方もおり、特に丁寧な説明が必要です。リート投資での損失経験がリート投資を遠ざける結果を招くことはよくない。やはり「リートはインカム型のエクイティ商品。ミディアムリスク・ミディアムリターンであっても、エクイティである」ことをまずは理解していただくことです。

証券会社から「リートは転換社債みたいなものですよ」と説明されたという話も聞きます。確かに転換社債もミディアムリスク・ミディアムリターンに位置付けられますが、明らかに違います。

ですからリート専門セールスの方がしっかり配置されることが望まれるし、不動産運用の代替物として売るのであればその認識をしっかり持っていただき、「リートを買いに来たのに外債を売られた」ということがないようにして頂きたい。

◆ リスクプレミアを払わされる理由

田邉:不動産は透明度の問題から、国債も他の金融商品にしても、日本は欧米諸国に比べてプレミアムがついてしまっている。プレミアムの分だけ不動産は安くなっていますが、「ここが改善されると不動産価格が上がる。もっと言えば国富が上がる」というあたりは、どう考えたらいいでしょうか。

もちろん透明性は努力によって改善すると思いますが、プレミアムは消えていくでしょうか。

倉都:資産価格にプレミアムが付くということは、何らかのリスクが存在すると投資家が判断している、いうことです。日本と欧米を比べた場合、やはり「透明性に関する説明力」という意味でプレミアムが付いているのでしょう。

アングロサクソン流の金融業者や投資家的なお金の人たちは、「クローズド社会」という日本のイメージをが何十年も持ち続けていているんですね。

オリンパスの粉飾決算事件もそうした認識をまた強めてしまいありましたが、リートなどの透明度は逆に非常に高い。市場関係者が透明性の点で努力しているにも関わらず、直感的な偏見から抜け切れていない。不動産にしても株価にしても割安なのは信頼性が十分だと思われていないではないからです。

グローバルな金融市場は残念ながら日本基準ではなくアングロサクソンの基準で動いているので、彼らの御眼鏡に適わないと高いリスクプレミアムを払わされる。欧米の現状の金融システムからすると、日本のほうが強靭で信頼性も高いはずですが、それでもまだ彼らはの目線からすると日本を一段下に見ているように感じますです。

金融は自由でグローバルな市場だという印象が強いですが、歴史的にはその資本市場モデルは西洋で発展したものです。中世イタリアから始まって、オランダ、イギリス、そして米国というように、いわば「大西洋の東西」を土壌として成長してきたものなので、彼等には金融は自分達が作ってきたという自負的な感覚が抜けないのでしょう。それは、私が米銀勤務時代に痛感した事実でもあります。

そうした見方の解消には相当時間がかかるかもしれないが、努力を怠ってしまうと一層のリスクプレミアムを払わされる。グローバルなお金を取り込むのがわれわれのビジネスの宿命ならば、そこは忍耐強く努力を重ね発信していくことが肝要です。そして発信は、日本人の標準からみてややオーバープレゼンス気味にしなければ彼らの目線にフィットしません。残念ながら、日本人はメッセージの出し方が上手ではありませんから。

堀江:日本の金融システムの強靭性や全般の優位性は通貨に表れているのではないかと思います。日本円がここまで強いのはフェアバリューだと私は思っています。

仕組み全体として強靭な点は評価されてきたものの個々の銘柄評価になるとガクッと落ちる。アングロサクソン流の企業価値評価方式に沿って個々の企業なりを見ていくと、「どうもスコアが行かないね」という話になります。

私が丸9年の海外IRを通して感じるのが、ここ数年間で日本株の投資家が激減したことです。GDPが世界第3位に転落して以降、日本株に対するアロケーションが極端にアンダーウェートされ、結果的に当社の訪問先から日本株の専門家が減り、半年毎にIRに出る度に旧知の職員が退職したという話を聞きます。

日本株専門家とであればローカルルールが通じる間柄で良い点も多くありましたが、状況が変わった以上、今後は積極的にIRしなければミーティングも取ってもらえないかもしれないですね。

倉都:昔は欧米によるアジアの見方としてに「ジャパン」と「エクスイクスクルーブス・ジャパン(日本以外)」という区分がありましたがったのが、今はその特別枠がなくなりました。過去の固定観念を捨てて、アジアの枠の中で中国や韓国と競っていかなければいけません。

堀江:その通りですね。外国人投資家の中で日本株専門家は減る一方ですが、われわれは幸いにして、グローバルに不動産を見ている専門家にはカバーされています。ここはほかのインダストリーと違うところです。ある程度カバーはしてもらえる一方、グローバルな比較に晒されるので、倉都さんが仰るようにプレゼンできないとだめですね。

またグローバル投資環境の変化により、海外でもインカム狙いの投資家が台頭してきています。リートは他の日本株に比べて比較優位にはありますが、他国のリートに制度的な劣後がないことがまずもって条件になると思います。

田邉:現在のような円高では輸出産業が低く評価され、つれて株価も低いという面はあるにしても、トータルで見て日本の株価は低いです。不動産価格も低い。これをどう解釈したらいいですか。

倉都:昨今の円高にはいくつか理由があります。実質金利で見れば日本は比較的高いですし、対外資産でみれば依然として世界一です。また欧米が金融システムの回復に苦労しているのに対し、日本は10年以上前に不良債権処理を済ませてしまいました。貿易赤字が暫く続いても、経常黒字が急減するようなことにはなりません。

そして例えば未曾有の大震災から1年程度で経済が経つと、経済にしても、ほとんどの国民生活は元に戻るようなことは、他の国ではちょっと想像できない、とよくあり得ないと言われます。日本の底力が円に対する信用となって表れていることには私も同感です。

「打たれ強いのは判った。だが成長率性では中国やインドに比してどうか」という、成長性に対する疑問が、資金をエクイティに行かせない理由でしょう。買った円は、金利は低いけれど取り敢えず換金性の高いでどうするか。ほとんどリターンの取れない国債で回しておこう、といのが実情です。を買うのか。エクイティに行くか。成長性が乏しいなかで、残念ながら円に対する評価とエクイティに対する評価にはギャップがあると思います。

田邉:成長性の不足は日本の弱点ですが、証券化がその弱点を補えるのではないでしょうか。先ほど堀江さんからお話があったように、成長分野はいくつか残っており、新たな投資開発やインフラ整備にお金を持っていければいいと思います。

では、証券化が役立ちそうな分野に何が考えられるのか。私は、証券化は色々なものに使えると思っています。証券化の本質はリスク分散もありますが、SPCという箱をつくれば物と資金を移転し、何でもできます。

たとえば賃貸ビルは比較的ストレートなオペレーションで、ケア付きのマンションは少し複雑になる。対象によりオペレーションの複雑性は変わりますが、専門業者と組むことで対応できます。外部委託者を選定する際は市場原理を働かせ、あらゆる成長産業への投資に使える器ではないでしょうか。

今後どういう活用の仕方があり得るのか、どういうお金を引っ張ってくる余地があるでしょうか。

◆ 医療分野、電力問題、地方活性化に活用

堀江:医療は成長分野の一つです。病院をつくるには相当の資本投下が必要です。しかし医師の方々がそういうことを得意としているとは思いません。設備をどこまで証券化ビークルで持つかは考える必要がありますが、われわれがお手伝いをし、医師は医療に専念していただく。高齢化が進展するなかで検討が必要な分野だと思います。

もう一つは電力分野です。風力発電、太陽光、高出力の火力発電、地熱発電など、当然すべて土地建物が必要です。太陽光は遊休設備を使うためわれわれの経済合理性と必ずしも合致しないかもしれませんが、将来的にはエネルギー分野のお手伝いができればもっと活躍できます。

倉都:これまで東京に集中してきた都市インフラ整備を少し見直す必要があるでしょう。災害の問題もあるし、地方は活性化対策で北から南まで同じ問題を抱えています。シャッター通りをいつまでも放置しておくわけにもいきません。インフラ整備と絡め地方経済の活性化に証券化をいかに活用できるか。

実は地方経済の活性化の為に、2005年頃に全国の地銀に呼びかけて「日本証券化プロジェクト」という運動を起こしたことがあります。それは沖縄金融特区の制度を利用したもので、結果的には一部の銀行が参加したに止まりましたが、有意義な証券化運動であったと思っています。そうしたコンセプトが、不動産の証券化にも適用できないだろうか、と思います。

現状では証券化の運用対象ビルも住宅も首都圏に集中していますが、今後、どれだけ拡散できるかが経済成長のけカギになると思っています。

また、それから日本では低金利の国債にばかりお金が流れるなど、日、英、米などではの長期金利が史上市場最低となり、金利や欧州ではのマイナス金利といった異常な状況になっていますが、こうしたお金の流れはどこかで修正が起きます。

欧州の国債市場で発生しているマイナス金利と言うのは、実に不可解な状況です。わざわざ損するような運用を行うのですから。但しこれが一時的ではなく数か月間も続いているのは、おカネの回路とも言うべき市場構造が壊れてしまっているからです。

但し、これはユーロという特殊な環境で発生しているもので、日本でそうした事態になるとは思いませんが、それでもゼロ%に限りなく近い金融商品にプロの資金が長期間にわたって滞留しているのも、異常な光景です。

市場ではデフレという言葉にすべての責任を押し付けていますが、私は必ずしもそれだけが原因だとは思いません。資金を運用するという仕事に、やはり工夫や真剣さが足りないように思われます。特に不動産に関しては、過去の呪縛からなかなか逃れられないという点もあるでしょうが、AAAの債券や国債で運用するなら、中学生でもできます。しかしいきなりエクイティに行くかといえば、先進国の低迷経済では難しい。

米国株はが上がっていますが、実は投資家の資金は株式市場からお金が流出している。お金は出ているが先物主導で相場がは上がっている脆弱な状況でするという先物市場のような現象が起きています。一方で米国のリート市場にはは上昇し、市場には実際に内外投資家のお金が流入しています。日本でもこれまで国債に行きすぎたお金がJリート市場などに戻り、お金が流れて、経済成長力を高める力になってほしいと思います。

田邉:確かに銀行の資産の増加分は、ほとんど国債に行ってしまっていますね。

堀江:金融機関の方も国債価格の下落を心配されていて、国債のバッファーとして「一部リートを買ってみようか」というお話を頂戴します。

リートには地銀も少しずつ戻ってきています。地銀の中でも初期の頃から投資されているところと、業務純益に組み込みが可能になった後に入ってきたところがあり、入るタイミングによって背負う簿価が違うため、投資スタンスにも違いが生じます。マーケットがいいときにポートフォリオを組んだ方はロスカットルールに引っかかりましたが、ここに来て意欲が出てきている感触はあります。ただ担当者は良くても上で通らないとか、過去にロスカットルールに引っかかったとか、不動産融資で辛い思いをしたとか、行動経済学的に投資を踏みとどまらざるを得ないというお話も聞きます。

◆ 資本政策の分野で遅れをとるリート

田邉:そういう投資家の動きも含めて、リート市場がより良くなるための制度面の改正など、何か要望はありますか。

堀江:これまでお話ししたような役割を今後リートが果たすためには、国内外の資金が着実にリートについてこなければならない。日本のリートの競争相手は日本のリートではありません。現在、諸外国とイコールフッティングの観点から制度の見直しが議論されています。

事業会社と比較して日本のリートは資本政策の点で手足を縛られているため、投信法ではライツ・オファリングや自己投資口取得、減資制度の導入などを要望しています。またNAVに対して投資口価格が大きくディスカウントされている状態では増資に踏み切りにくく、そこの手当てを来年度の投信法改正の中で取り込んで頂くのが我々の切なる希望です。

もう一つ。リートは不動産の再開発ができませんが、一方で物件は古くなる。どこかで入れ替えが必要です。キャピタルゲインの繰り延べか、簿価の付け替えができればポートフォリオの入れ替えも進みやすくなります。現状では物件を売りキャピタルゲインが出れば100%配当しなければならないため、簿価相当分しか再投資ができない。するとキャップレートが変わらなくてもインカムに回せる部分が減り、いいタイミングでの物件の入れ替えができない。これが解決されるとサステイナブルなポートフォリオ運用がやりやすくなると思います。 

◆ 追求すべきリートの価値

田邉:AIJ問題では内部管理体制の不備が事件の大きな要因となっています。コンプライアンスの観点からリートはどうでしょうか。リートは他の業界以上に厳しい体制を要求されて、金融危機が起きる前からかなりつくり上げてきたという認識がありますが。

堀江:その通りです。金融検査で指摘があり業務改善命令が出た事例もありますが、リート全銘柄に対する検査もほぼ一巡して、10年間のオペレーション期間を経て業界にスタンダードができ上がってきました。

投信法はそもそも証券投信法から来ており、証券投信の世界ではあり得ない不動産のオペレーションが生じるため苦労がありました。当初は「法定帳簿はこれでいいのか」といった具合です。

また、日本のリートはビークルに信託ではなく投資法人を使うので、ここにガバナンスが存在します。株主イコール投資主の一定のガバナンスと、役員会のマジョリティーに第三者に入っていただきチェックを受ける仕組みです。

仕組みとしては非常に良いものです。生かし方は個々の銘柄の判断ですが、これも10年間でスタンダードができてきました。

田邉:証券化はもともと金融商品が証券化されるのが主流ですね。しかし不動産は実物資産で、直接資金調達したものが不動産に結び付くため不当な操作ができない仕組みです。ローンを証券化した場合、債務者や担保資産がわかりにくい。さらに2次、3次証券化するといよいよわからなくなる。その点からもJリートの仕組みはわかりやすく透明性も高いうえに、積み重なる努力により頻発する金融不祥事のような問題は起こしようがないと思います。

堀江:リートは投資家が実際に手にする商品が上場しています。したがって当然監査法人の監査も入るし、取引所の開示ルールもある。規制当局も関与します。サブプライムローンの証券化商品が上場しているという話は聞かないし、リートは投資対象が実際に目に見える。比較にならないと思います。

私は部下に「100年の資産運用に耐えられるようにしろ」と言っていますが、投資家の信認と社会経済的役割を全うすることがリートの追求すべき立場だと思います。

Jリートはマーケット誕生から1サイクルを経る前に、サブプライム問題のような大きな事故に遭遇しました。金融商品は1サイクルを経ないと割安、割高という判断ができないものです。しかし政策の対応はかなり迅速でした。ニューヨークのある投資家には、「不動産デフレとの戦いでは、日銀の政策が一番良かったのではないか」と言われました。2巡目では1巡目の経験が生かされていくと思います。 

◆ 国税の理解がないとREITの制度改革は進まない

田邉:最後に、金融、為替など総合的に見て何かあればお願いします。

倉都:2008年のリーマン・ショックを経て、世界経済や金融市場は大きな転換点を迎えています。欧米では家計や企業、銀行などの民間主体が過剰な債務削減を図っていますが、その反面で成長を止めないようにその債務を国家が肩代わりする構図となっています。つまり、債務が民間から国家に移動している。ユーロ危機もその文脈上にあります。

そして市場のおカネも国債へと流れて、先ほど述べたように各国では史上最低金利となっています。但し、将来的な財政問題を考えれば、現在の国債金利が正しいリスク・リターンを示しているようには思えません。また株式に関しても、各国の中央銀行による異例の緩和策に支えられて、実体価値以上にプライシングされているような気配も感じられます。

つまり、国債や株式には、言いようのない不安感があるのです。それが、一部の投資資金を金などの現物資産に向かわせる一因となっています。株や国債はその価値実態が把握しにくい得体の知れないものですが、実物資産は運用側にとっても投資家にとっても存在が確認できるというメリットがあります。経済の将来像に自信が持てないお状況が振るわない今のような時代には、現物資産には安心感があります。ただ、ることを頭では理解していても、いざ現物を買おうとすると「買えるものが少ないない」のですとなります。

その中でリートは唯一と言っていいほど、現物が見えて、なおかつ少額でも運用できる貴重な商品であることを世の中に知らしめる必要があると思います。もちろん業界でもいろいろな努力をしているでしょうが、まだ認知度が不足しているように思います。それに加えて年金の取り込みも十分ではありません。0.5%の国債やハイリスクのヘッジファンドを買うくらいならリートを買った方がどれだけ良いか。

堀江:仰る通りです。リート資産規模の上位10位にはアメリカの年金は入っていますが、日本の年金は入っていません。しかし国内年金資金の取り込みには、市場規模の観点から流動性のジレンマが常に付きまとっています。

それから、現物で見えやすくインカムがあるというメリットに加え、リスクに対する説明も不可欠です。

リートのストラクチャーに内在する問題として、負債レバレッジを活用していることと、クローズドエンド商品であることは説明しておく必要があります。各種管理や一般管理費にかかるコストは、レバレッジによる部分でカバーできるし、クローズドエンドではあっても、その分流動性があるので、現物の大きな不動産に投資するよりはいいです。

もう1点、リートの制度問題はすこぶる税務問題です。国税の理解なくしてリートの制度改革は進みません。

リートは「法人税を払わない」と言われます。しかし法人税は払わなくても源泉税は払っているんですね。しかも配当性向100%でしっかり捕捉されています。上場不動産会社と異なり赤字にできないため、その分はコツコツと払っています。

運用会社は利益が出るので法人税を払うし、例えば東急REIMとある不動産会社の資産規模を一緒にした場合、その会社の6割程度は何らかのかたちで税金を払っていることになります。

上場不動産会社は当然われわれより配当性向は低く、法人税は払っているにしても払わない年もあります。源泉税は軽減税率10%も本則に戻ればほとんどなくなります。

ですから税金を払っていないのではなくて、むしろ補足しやすいかたちで払っていることを申し上げておきたいと思います。

田邉:確かにこの論議は成り立ちますし、ストーリーとしては、REITが成長することによって税収も増えると言う話ですね。

堀江:ですから税務当局ももっとREITを応援して欲しいです。

田邉:いろいろな方向から議論していただき、ずいぶんおもしろい内容を聞かせていただきました。どうもありがとうございました。