12月3日の日本経済新聞では合計6面にわたって、11月4日に行われた「J-REITカンファレンス2009」の特集を掲載している。昨年秋のリーマン・ショック以降、J-REIT市場は金融危機に直面し、信用収縮の大波が業界を襲い、市場全体の値動きを示す東証REIT指数はリーマン・ショック直前の1200から一時700台前半に暴落し、リファイナンスに窮したニューシティ・レジデンス投資法人の破綻により、J-REITの神話は崩壊した。これによりJ-REITの資金調達では公募増資の道が閉ざされ、今年10月に再開されるまで1年3ヶ月もかかったのである。また中堅以下のREITでは投資法人債の償還が困難と見られ、業界の危機感が募るばかりだった。そこで官民あげての「不動産市場安定化ファンド」の創設や投資法人同士の合併にともなう税制の整備が急がれたのである。この背景にはREITや投資法人債を大量に保有している地域金融機関の信用不安を防止するという目的があったことは云うまでもないだろう。
こうした対策が一時的にREIT市場の下支えとなり、東証REIT指数は今年夏には1000付近まで回復した。ところが民主党への政権交代により不動産業界への対応は鈍くなり、次第に投資家の関心は薄れてゆき、ここ数ヶ月は海外投資家の売り越しが目立つようになり、再び800台に下落し、冴えない相場が続いている。金融緩和で活気づく海外のREITとは雲泥の差である。
こうしたなかで開催された「J-REITカンファレンス2009」では、再度J-REITが果たすべき役割と今後の展開について議論が交わされたようである。慶応大学の吉野直行教授が「不動産投資市場の発達と日本経済」と題して基調講演を行なっているが、その中で吉野教授は日本における不動産価格がバブルかどうかを判断するポイントとして、次の3点を上げている。
1)銀行融資全体の中で、不動産融資の割合が高すぎないか(目安は30%)
2)不動産価格上昇率が、その国の実質経済成長率に比して高すぎないか
3)住宅価格が平均的なサラリーマンの年間所得の何倍まで上昇したか(目安は10倍)
さらにREIT市場の安定化には国内投資家の存在が不可欠であり、これは日本の国債市場が比較的安定であるのが国債の大半を国内投資家が保有しており、海外投資家の保有が少ないためであるとも述べている。J-REIT市場が海外投資家の売買動向で乱高下してきただけに、個人投資家も含めた国内投資家の比重は高めたいところだが、実現にはほど遠い。
原点に返れば国内投資家に不人気であるのは、やはりその市場に魅力がないことであろう。REIT発足当時、あの9.11が起こり、新市場はいきなり瀬戸際に追い込まれた。しかし、当時の市場参加者はなんとかこの市場を守ろうとして、上場企業では屈指の開示情報を普遍化し、市場の透明性を高める努力を行っていた。それが投資家の信頼を得られ、ブームになるきっかけを作ったと市場に近かった筆者は確信している。従ってその後の安易な上場や増資が現在の低迷の一因であるとも感じている。
ちなみに今回の「カンファレンス2009」には投資法人は参加していない。従って今回の参加者は従来とは少し異なっていたようだ。いわば業界の集まりというわけではなく、一般の投資家が多かったようだが、その割には基調講演やパネルディスカッションの内容は高度で、ビギナーに理解できる内容とは思えず、途中で退席する人が妙に目立ったとも聞いている。まだまだ業界と一般投資家との間には溝があるようである。
なお同じ日経の主催で2010年1月11日にREIT各社によるIRプレゼンテーションが予定されている。興味のある方は下記をご覧ください。
http://www.adnet.jp/nikkei/investor/jreit/
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