24日夜にニューヨーク地区連銀総裁のガイトナー氏が米下院の委員会で証言して
います。その証言のタイトルは、『システム的リスクと金融市場』というもので、
同連銀サイトにアップされています。今日はこの金融機関やその問題が金融シス
テム全体に与える影響を考えていきましょう。
ガイトナー総裁の発現の主な点は以下のようになります:「Fedは監督強化にお
いて重要な役割を担うべき、市場安定を確保すべき」・「Fedの流動性供給策の
利用度は軽減している」・「Fedの流動性供給策は重要な役割を担っている」・
「投資銀行は顕著な進展をした」・「モラル・ハザードを軽減するため強い金融
監督が必要」・「企業は安定期間において困難な時期に備え十分な資本を蓄えて
おくことが必要」。
ここで、特に「モラル・ハザードを軽減するため強い金融監督が必要」というく
だりに注目しましょう。まず、モラル・ハザードとはなんでしょうか。日本語で
は「倫理の欠如」ともいい、広辞苑によれば「リスクに対する補償のためリスク
への責任感、経営倫理が失われること」をいいます。この場合、今の局面で問題
となるのは「大きすぎてつぶせない」という行政の慣行です。
この「大きすぎてつぶせない」というのは1970年代に生まれた概念で、社会全体
に与える影響の大きさから、経営判断の誤りなどがあっても市場の力にまかせて
破綻させるのはよくない、という考えです。最近救済合併されたベア・スターン
ズ社はまさにこれに該当するといわれます。ただ、救済といっても、株主は非常
に低価格で株を手放させられましたし、社名も消えましたから、その意味では救
済ではありません。
しかしあまり新聞などではきちんと報じられていないかもしれませんが、<実は
>救済された人たちがいます。それは、ベア社の投資用資金を貸していた銀行な
どの投資家たちです。このような債務は全額守られました。ベア社のような証券
会社は、収益を拡大するため、自己資本(≒株主の資本)の20倍、30倍という借
金をして投資をしますから、総資産の3%の自己資本がほぼ吹っ飛んだかどうか
より、残りの97%が守られた意味は非常に大きいのです。もし、このような投資
家に損失が出れば、似たような投資をしている証券会社は他にもありますから、
同じように損をするリスクを考えます。それを防ぐため投資家はいっせいに資金
を引き揚げるでしょう。その場合は、日本がバブル崩壊後に味わった、金融機関
の相次ぐ破綻、株価・ドル大暴落、いずれ景気の低迷どころか債務デフレを招き、
インフレが問題となっているときに意外かもしれませんが「デフレ転落」もあり
えたでしょう。そういうことが「システム的リスク」です。
問題は、そういう短期的痛みが実現したら非常に危ないという、その時点では非
常に賢明とみえる判断のかげで、ないがしろにされた倫理があることです。それ
は自己責任原則です。つまり、先ほどの辞書の定義にもありましたが、「リスク
に対する補償」が存在するわけです。大きな金融機関への貸付なら最悪でも損は
させませんよ、という政府の約束です。プロの投資家が、貸した先の財務状態や
リスクをかえりみないでいい(自己資本の30倍の投資はちょっとの狂いで大損す
るものです)というのは、ゆくゆくはもっと大きな災害を招くのです。これこそ
が辞書にはないモラル・ハザードの意味です。思えば、サブプライム危機そのも
のが、グリーンスパン前議長による金融機関救済などのモラル・ハザードの総決
算といえるでしょう。
そしてこのような救済は、自己責任を要求される個人投資家からみれば不公平感
はないでしょうか?あるいは、救済の対象とならない一般企業・中堅中小銀行は
どうでしょうか?こういう不公平感は、社会を長い目でみればむしばんでいくの
です。産業が発達し、社会におカネや資本が蓄積されると、必ず金融資本が勢い
を増していきます。その本質的に不安定な仕組み(預金と貸金のミスマッチ構造
など)をはらんだまま国家権力とつるんで産業を支配する、そういう姿は過去に
資本主義そのものへの不信と社会主義・共産主義への共鳴を生みました。
最後になりますが、その防止にはガイトナー総裁がいう「強い金融監督」しかな
いのでしょうか?監督するのは国家の行政機関でしかありません。国家は権限と
コントロールの拡大を本能的に求めるもので、むしろ願ったりかなったりでしょ
う。国家は特定の重要産業なら資本主義の原理原則からはずれた救済もします。
そのような国家の機関に、経済の根幹の貨幣と金融システムをコントロールさせ
ても将来の災いのたねをいずれ残すだけとは思いませんか?
したがって、どんな金融機関が破綻してもシステムは揺るがず、救済せず、救済
をあてにできないから自分の資本は慎重な計算の上でのリスク・テイクで守るよ
うな金融を可能にする、100%準備と金本位制がサブプライム危機を経験した今
だからこそ求められるのだといえるでしょう。
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