昨年の米国市場を震源地とする危機は、金融立国として豊かになった筈の欧州諸国を襲った。アイスランドは国家存亡の危機と言っても過言でない深刻な局面に立たされ、アイルランドは最高格付けを失い、強固な金融センターを持つ英国の財政状態も急速に悪化した。その余波は、不動産で湧いたスペイン、財政規律の緩いギリシア、経済基盤の脆弱なイタリアなどにも波及しており、アイスランドもまだ危機的状況にある。市場は景気回復を期待する半面で、欧州諸国の信用力への懸念は隠せない。
英国の5YRS CDS価格水準は、日本よりも悪化して80BP前後で推移している。Cityが既得権益を失う可能性は低いと見られるが、金融産業の利益力低下は不可避であり、同国財政には警戒信号も灯っている。Morgan Stanleyは、英国がAAA/Aaaの格付けを失う可能性は高く、2010年早々にも英国債・ポンドへの売り圧力が高まることが予想される、と悲観的見通しに傾いている。これが他国のデフォルト懸念に火を付ける可能性はある。
ユーロ圏はドイツを中心に景気回復の気配が見えているが、アイルランド、ギリシア、スペインなどの財政赤字はGDP比で10%を超えており、政府の負債残高も100%前後の国が続出している。もっともユーロ圏は財政支出拡張には慎重だ、と英Economist誌は報じている。イタリアは景気刺激策を取らず、アイルランドも銀行救済という不透明感は残るが基本政策として財政引締めに転じた。スペインは来年の付加価値税引き上げを決定している。
だがS&Pは日本同様に財政赤字拡大に歯止めがかかりにくいギリシアとスペインをNegative Watchとし、FitchはギリシアをBBB+へ格下げすると発表した。ECBの従来ルールに従えば同国債は「担保不適格」であるが、臨時措置で来年まではBBB-までの格付けが容認されているため、すぐに危機が迫っているとは言えない。但しギリシア政府の政策如何では更なる格下げの可能性もあり、同国債利回りは今週一気に1.3%もの急騰となっている。
同誌は、ギリシア問題は1975年のNew York市の破綻問題に似ている、と指摘する。当時のFord大統領は同市の救済に反対であったが、その悪影響が連邦政府に及ぶにつれて姿勢を転換させた。ユーロ圏の「No bail Out」条項もいざデフォルトが現実味を帯びてくれば留保されるかもしれない。ドバイも株価急落で路線を修正、米国も州政府に対し同様の救済を再現するかもしれない。「誰に本当の救済余力があるのか」という新たな懸念が惹起されるのは時間の問題だ。
上記は世界潮流アップデート第321号からの抜粋です。
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